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セクハラ・パワハラした場合って必ず会社をクビになる?

皆さん、こんにちは。弁護士の本多芳樹です。

先月は新型コロナウィルスの法律業界全体への影響をざっと述べましたが、先月の記事の後、緊急事態宣言が出た影響で法曹界にも非常に大きな影響が出ました。私が担当している宣言地域内の裁判・調停、等の期日は全て延期になりましたし、法テラス・弁護士会等のいわゆる公的機関が主催する法律相談は全て中止になり、その他の業務も大幅に減少しました。私も弁護士になって10年以上たちますが、業界全体がこのような影響を受けたことはなく、非常に驚いておりますし、怖いなと感じております。

新型コロナウィルスに関連する相談は、ちらほら受けているのですが、裁判所による判断がでておらず確定的なことは言えないので、ここでは新型コロナウィルス関連以外のことをテーマにしたいと思います。

今回は、セクハラ・パワハラ等を理由にした懲戒解雇についてです。

そもそも、セクハラ・パワハラって何?

セクシャル・ハラスメント(セクハラ)とは、相手方の意に反する性的言動のことをいい、パワーハラスメント(パワハラ)とは、力関係において優位になる上位者が下位者に対し、精神的、身体的に苦痛を与えること等をいいます。(後で述べますが、厚労省によりパワハラに関する指針が発表され、パワハラ行為の例が細かく規定されるようになりましたので、興味がある人は調べてみてください。)

そして、使用者は、法律上(労働契約法第5条 「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」、雇用機会均等法第11条1項 「事業主は、職場において行わる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」)職場環境配慮義務を負っているので、同義務に違反してセクハラやパワハラ行為を放置することは許されません。

したがって、社内でセクハラ・パワハラがあったということが発覚した場合、使用者は適正に対処(被害者への謝罪・慰謝料の支払い、被害者と加害者の職場を離す、加害者への懲戒処分、等)しなければならず、適正に対処しないと被害者及び加害者双方から訴えられるリスクがあります。

セクハラが違法となるのはどういう場合?

セクハラかどうかは、本人の主観的判断ではなく、被害を受けた労働者が女性であれば「平均的な女性労働者の感じ方」、男性であれば「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とし、労働者が明確に意に反することを示しているにもかかわらず、さらに行われる性的言動はセクハラに該当し得る、とされています。

具体的には、性行為の強要や強制わいせつ行為は当然違法ですが、交際を強要する、容姿等について性的に不適切な言動を繰り返す、噂を流布するといった行為も違法になる可能性が高いです。

パワハラが違法となるのはどういう場合?

パワハラかどうかは、裁判例によると、「他人に心理的負荷を過度に蓄積させる行為は、原則として違法であるというべきであり、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合がある」とされています。

当該行為が正当な職務行為に該当するかというのがポイントとなり、当該行為の目的、態様、頻度、継続性の程度、被害者と加害者の関係性等が考慮されることになります。

具体的には、暴力を伴う行為は違法であり、暴力を伴わなくても他の従業員の面前で繰り返し罵倒する、「ばか」と罵った場合には違法とされた裁判例があります。

他方、①架空出来高の計上等を行ったことにつき、是正するよう指示を受けたにもかかわらず1年以上も是正しなかった部下に対し、上司が「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならないぞ。」などと述べる等、厳しい改善指導をした事案、②病院の事務職員の事務処理上のミス等に対して、時に厳しい指摘、指導をしたという事案では、正当な職務行為の範囲内で適法とされた例もあります。

セクハラ・パワハラを行ったらクビ(懲戒解雇)になる?

では、セクハラ・パワハラ行為が違法であったとして、当該セクハラ・パワハラ行為を行った労働者をクビ(懲戒解雇)にしてもよいのでしょうか?

懲戒解雇は、労働者の生活の糧を失わせることになる非常に重い処分なので、要件が厳格に定められています。すなわち、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として認められない場合には、権利の濫用として無効になります。

セクハラの事案ですが、裁判例では、社員旅行の宴席や日常で女性従業員の手を握ったり、肩を抱いたりした労働者を解雇した事案について、セクハラにあたるとしつつも、強制わいせつとは一線を画すこと、会社に対する貢献、反省の情、会社による従前の指導・注意の欠如等を理由に懲戒解雇は重過ぎるとして無効とした例があります。

上司のパワハラ・セクハラを告発した労働者につき、虚偽の内容の告発をしたこと、その内容を部外者に漏えいしたことを理由に懲戒解雇した事案につき、虚偽の内容ではなかったので懲戒事由にあたらず、部外者漏えい自体は懲戒事由にあたるものの、法人が的確な調査を行わず、かえって告発者を降格させるなど不適切な対応をしたことが理由で生じたことである、として解雇は客観的に合理的な理由を欠くとして無効とした例があります。

店長として在籍中に、複数の部下やスタッフに対して長期間にわたりセクハラ・パワハラ、不倫等を行ったことを理由に懲戒解雇した事案につき、部下と不倫関係にあったことや部下と一泊二日の温泉旅行に行った事は、職場内の風紀秩序を乱したことは否定できないが具体的にいつどのような悪影響が生じたかが明らかでなく、セクハラ・パワハラ行為があったとは認めることはできず、解雇は無効であるとした例があります。

行為態様が悪質とまではいえないと判断された場合、使用者が事実関係等の適切な調査を尽くし、相当な手続きを踏んでいない場合には、懲戒解雇は無効となる可能性があるので、簡単にはセクハラ・パワハラ等をしたからといってクビにはできない、ということです。

さいごに

結論としては、セクハラ・パワハラ等を行ったとして会社をクビ(解雇)になったとしても、解雇が無効になる可能性は結構あるということですが、被害者から損害賠償請求されるリスクはありますし、刑事告訴されるリスクもあります。

また、今年の1月に厚労省からパワハラ防止のための指針が発表され、今後パワハラ防止対策は大企業の義務となりますので、今後はパワハラに対する世間の目が一層厳しくなることが予想されます。何より、たとえクビにならなかったとしても、セクハラ・パワハラ等の行為が発覚した後もこれまでと同様の雰囲気で勤務することはまず不可能なので、セクハラ・パワハラ等は絶対にやめましょう。

この記事を書いた人

株式会社三善屋

本多 芳樹(ほんだ よしき)

埼玉県出身。現在東京都在住。弁護士歴12年。
労働問題を専門とする弁護士事務所で長年勤務した後、2年前に独立。現在は労働問題を中心に民事事件全般を手掛けている。趣味は、フットサル。最近の趣味は、ゴルフのコースデビューを目指して、レッスンで練習中。


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