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給与ファクタリングの落とし穴?

こんにちは。弁護士の本多芳樹です。
今回は、給与ファクタリングという見慣れない制度に関するニュースを見たので、それについて考えてみたいと思います。

給与ファクタリングとは?

みなさん、「給与ファクタリング」って何だか知ってますか?私は、全く知らなかったのですが、給与ファクタリングという制度が違法だというニュースを見て初めて知って興味を持ち調べてみました。

一般に「ファクタリング」とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。

また、このスキームを個人に当てはめ、個人が勤務先に対して有する給与(賃金債権)を、給与の支払日前に一定の手数料を徴収して買い取り、給与が支払われた後に、個人を通じて資金の回収を行うものを「給与ファクタリング」といいます(金融庁HPより)。

給料前払いサービスとは?

「給与ファクタリング」と似たような名前のサービスとして、「給与前払いサービス」というものがあります。給与前払いサービスについては、私が以前担当した裁判の中で、当事者である従業員が利用していたので、私は知っていましたし、特にその裁判では違法性は争点とはなってなかったと記憶しています。

「給料前払いサービス」とは、企業が給与の前借りシステムを導入し(企業とサービス提供業者が契約するのが前提)、そのシステムを利用して前借りを希望する従業員がパソコンやスマホアプリなどから前借りを申請し、承認されると従業員の口座に現金が振り込まれたり、銀行やコンビニのATMから現金を引き出すことができるサービスのことを言います。当然前借りした分は次に支給される給料から差し引かれます。

従業員側としては、給料日前に働いた分の給与を好きな時に受け取れるというメリットがあります。他方、企業側としては、新規採用応募数が増え、更に離職率が低下するというメリットがあります。福利厚生の一環として導入企業の数も大幅に増えているみたいです。

両者の違い

「給料前払いサービス」と「給料ファクタリング」は、給与の支給日前に現金を受け取れる点で似ています。

もっとも、「給料ファクタリング」は「給与前払いサービス」とは違い、給与を支払う側の企業は全く関与しません。ファクタリング業者と従業員との2者間の契約となります。

給料債権を買い取るという形態にすることにより、給料ファクタリング業者は貸金業者とならないような形式をとっていますが、実際は手数料という名のもとに法外な金利でお金を貸しているのと同じことを行っている業者が多く、実質的には貸金業者と同じです。金融庁は、「給与ファクタリング」業者は貸金業社にあたるが、「給与前払いサービス」業者は貸金業者にはあたらないという見解を述べています。

裁判ではどうなっているか?

将来の給与を債権として買い取る「給与ファクタリング」は貸金業にあたり、法外な金利を求める契約は違法だとして、特定適格消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」が業者らに消費者裁判手続き特例法に基づき、代金返還義務の確認を求めた訴訟がさいたま地裁でありました。  

業者が、利用者から受け取る予定の給料を債権として買い取り、手数料を控除した額を利用者に提供し、利用者は期日までに債権額を支払う仕組みで契約を結んでいたところ、判決は、こうした手法は「金銭の貸し付けに当たる」と認定し、年利120%を超える利息での貸し付けも違法とし、給与ファクタリング事業を行うことは「不法行為が成立する」と判断しました。

この裁判は、地裁判決ですが、「給与ファクタリング」は貸金業にあたるということは、貸金業法の登録が必要となり、貸金業を行うには、法定利率に従わなければならなくなることを意味するので、「給与ファクタリング」事業は今後なくなっていくことが予想されます。

一方、「給与前払いサービス」には、今のところ違法という裁判はないようですが、給料前払いサービスには、大きく分けて2つのモデルがあり、企業が先に前払い分の給与をプールして従業員が現金を引き出す方式と給料前払いサービスを提供している業者が従業員への前借り給与を立て替える方式があります。

2つのモデルのうち、業者が給料の前払い分を立て替える方式は法的には、労働基準法(賃金の直接払いの原則)に触れるおそれや、手数料の額や利率によっては、「給与ファクタリング」と同様の問題点が生じるリスクがあります。

さいごに

今回は、「給与ファクタリング」という制度について考えてみました。

コロナ禍でお金に困っている人もたくさんいるかと思いますが、どこに落とし穴が潜んでいるかわからないので、安易に新しいサービスに飛びついてはいけないなと感じました。

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この記事を書いた人

株式会社三善屋

本多 芳樹(ほんだ よしき)

埼玉県出身。現在東京都在住。弁護士歴12年。
労働問題を専門とする弁護士事務所で長年勤務した後、2年前に独立。現在は労働問題を中心に民事事件全般を手掛けている。趣味は、フットサル。最近の趣味は、ゴルフのコースデビューを目指して、レッスンで練習中。


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